新設の財産開示制度は?

訓 金銭債務の強制執行の対象となる債務者に対して、裁判所を通じて、その債務者の財産を明らかにするように請求できる制度が出来たと聞きましたが、本当ですか。
掘  本当です。今までは、債務者からお金を取り立てるために、訴えを提起し苦労して判決をもらっても、その債務者がどのような財産を持っているか分からなければ強制執行をすることができず、何のための裁判だったのか分からないという不満がありました。そこで、今回、民事執行法が改正されて、平成一六年四月一日から、強制執行をすることができる一定の債権者又は一般の先取特権を有する者(給料債権を有する者など)は、債務者の住所地の地方裁判所に申立てて、債務者を裁判所に呼び出し、債務者の持っている財産を開示させるという「財産開示制度」が新たに設けられました。(民事執行法一九六条以下)
訓  強制執行が出来る人でも申立てできないことがあるのですか。
掘  未確定の仮執行宣言付判決、支払督促、公正証書の所持者は申立てできません。
訓  どのような財産を開示させるのですか。
掘  強制執行の対象となる全ての財産です。強制執行の対象とならない身の回り品等の差押禁止財産を除き、不動産、現金、預貯金、給料債権、敷金返還債権、売掛債権、自動車、株式、債券など、全てが対象となります。但し、開示すべき財産の一部を開示したことにより、その他の部分について債権者が開示しないことに同意した物については開示する必要はありません。又、債権者の債権額を充たすに充分な財産を開示した場合に、それ以外のものについては、債務者は裁判所の許可を得て開示しないことができます。
訓  債務者が過去に持っていて、その時点では既に処分済みの財産についても、開示してもらえますか。
掘  過去の財産は開示の対象とはされていません。しかし、その財産が売買されて無くなったとすれば、その売買代金が代金債権として残っていることもあるので、これに関連して過去の財産の内容を聞くことはできると思います。
訓  どのような方法で開示させるのですか。
掘  裁判所が、財産開示期日という日を決めて、この日に債権者と債務者を裁判所に呼び出します。裁判所は、債務者に対して、この日までに裁判所へ財産目録を提出するよう命令します。財産開示期日では、裁判官が債務者から財産の内容を聞き出しますので、債権者はその内容を聞き取ることができます。又、債権者は、債務者が提出した財産目録を見せてもらうことができますし、裁判長の許可を得て質問することもできます。もし、債権者が財産開示期日に出頭できなければ、後日、その期日の記録を閲覧謄写することもできます。
訓  債務者が期日に出頭しなかったり、出頭しても本当のことを言わなかったときはどうなりますか。
掘  その時は、債務者は三〇万円以下の過料に処せられることになっています。罰則については、債務者だけではなく、逆に、債権者も、財産開示制度によって得られた情報を強制執行の目的以外に使用したときは三〇万円以下の過料に処せられることになっています。


職務発明の対価

 Q 中村さんという技術者が職務発明の対価を会社に請求したところ、東京地方裁判所は平成一六年一月三〇日、六〇四億三〇〇六万円と認定したが、請求額が二〇〇億円なので全額認容したという新聞記事を読みました。会社から給料をもらっているのに、何故職務発明の対価が貰えるのですか。
A 特許法の三五条三項では、「従業者等は、契約、勤務規則、その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。」とし、四項で「受けるべき利益の額およびその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定める。」とあります。
 つまり、発明が企業の発展を促すためにこれを奨励しようとする国策に基づくもので、著作権法では法人名義で職務上作成するプログラム等は、就業規則や別段の定がなければ、従業員に対価請求権がないのと対比されます。
Q わかりました。しかし六〇四億三〇〇六万円というのは大変な額ですが、どのように計算したのですか。
A 裁判所は、まず従業者によって職務発明がなされた場合、使用者は無償の通常実施権を取得するが、それによって使用者が受ける利益は、当該発明を実施して得られる利益ではなく、特許権の取得により、当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益だとし、それは
①使用者が当該特許発明の実施を他社に許諾している場合(ライセンス契約)は、その実施料収入がこれに該当する。
②他社に実施許諾していない場合、他社に実施許諾した場合に予想される売上高と比較して、これを上回る売上高がこれにあたる。
③そして他社に実施許諾をしていない場合、②のほか、他社に実施許諾した場合を想定して、その場合に得られる実施料収入として独占利益を算定することもできる。
と三つの算定方法を示し、本件では右③の方法を採りました。
Q 実施料収入とは、通常売上の何㌫位でしょうか。
A その前に本件で基礎となる売上高はLED及びLD市場の予測規模や被告会社の現在売上高二〇年間分の中間利息を控除した現在額等から、一兆二〇八六億〇一二七万円とし、その半分の市場占有率を有していると見、又実施料率を二〇㌫とみて、一二〇八億六〇一二万円が被告会社の独占利益としました。実施料率は通常三~五㌫とされることが多いのですが、市場優位性をみて青色LED及びLDの実施料率を二〇㌫としました。
Q 被告会社の独占の利益はわかりましたが、中村さんの貢献度はどうですか。
A 当時、被告会社は蛍光体等を製造する比較的小さな会社で、中村さんは約一〇年間、赤色LED等の原料開発等に取り組み、次の研究開発テーマとして青色LEDを選択し、経営陣に働きかけ、一年間留学した後会社に装置を約一億四千万円で購入して貰ったもののわずかに新入社員が補助についたばかりで殆ど独力で開発したので、貢献度は五〇%としました。それで六〇四億三〇〇六万円です。
Q よくわかりました。私も生きている間に夢の開発にとり組まなくては。

不動産賃借人の保護

訓 不動産の抵当権設定後の賃借人を保護するための、短期賃貸借制度(改正前民法三九五条)が廃止されたそうですね。
掘 その通りです。平成一六年四月一日からの新しい賃貸借に適用されます。従前の賃貸借については更新を含めてこれまで通りです。
訓 今後は、ビルやマンションを借りて家賃を滞りなく払っていても、家主が銀行ローンを払えなくなって銀行から抵当権によって競売され、買受人がきまると、賃借人はすぐに出ていかなければならないのですか。
掘 すぐに出て行く必要はありません。買受人の買受けの時から六ヶ月を経過するまでは、引き渡さなくてもよいのです(民法三九五条)。
訓 しかしそれでは、今までは短期賃貸借の期間(宅地は五年、建物は三年)の残存期間内は引き渡さなくってよかったのと比べると、大変不利です。
掘 そこで賃借人の立場を守るため民法三八七条が改正されました。まず賃借権自体の登記をし、かつそれ以前に登記されている全抵当権者の同意を得て同意の登記をすることにより、その後の買受人に賃借権を主張できる制度を作りました。
訓 民法はどのように規定しているのですか。
掘 民法三八七条一項は「登記した賃借権は、その登記前に登記した抵当権を有するすべての者が同意し、かつ、その同意の登記のあるときは、これを以てその同意をした抵当権者に対抗することができる。」と規定しています。
訓 具体的には賃借人は何をすればよいのですか。
掘 賃借人は、まず借りようとする不動産に賃借権の登記をしてもらうことです。
訓 地主、家主が賃借権の登記に応じるということは、これまではなかったことですが、簡単に応じてくれるでしょうか。
掘 これからは、賃借権の登記に応じないと借りる人がいないので、皆応じるようになるでしょう。
訓 次はどうするのですか。
掘 その賃借権の登記より前に登記されている抵当権者の全員の同意を得なければなりません。実際には仲介の不動産業者に頼むことになるでしょう。
訓 どのような同意ですか。
掘 「賃借権が先順位抵当権に優先するとの同意」です。
訓 それを登記するには。
掘 同意の登記は、賃借人と抵当権者全員の共同申請により行われることになると思います。地主、家主つまり抵当権設定者兼賃貸人は、登記申請の当事者にはなりませんが、事前に話をしておくほうが良いでしょう。
訓 これで競売によって買受人に所有権が移転しても、賃借人は立退かなくてもよいのですか。
掘 そうです。