成年後見とはこういうことです

Q「成年後見」とは、あまり聞き慣れない言葉ですが、どのようなことでしょうか。
A かなり広い意味に使われていますが、いわゆる老人性痴呆等で正常な判断能力を失った高齢者や知的障害を有する人たちに対してその人の財産を管理する側面だけでなく、そうした精神的な障害を持つ人たちの衣食住や健康面の世話をも含めて援助する制度をいいます。
Q どうしてこのような制度が特に問題とされるようになって来たのでしょう。
A わが国では、諸外国に例を見ない程急激な高齢化が進んでおり、特に二一世紀の二〇年代には人口の二五パーセントが六五歳以上の高齢者となるといわれています。このような「高齢化社会」の問題だけでなくひろく精神的障害を持つ人たちに適切な援助を行ない人間らしい生活を実現する社会でなければならないという人権、福祉思想が高まってきたことによると思います。
Q 今までの制度のどのような点が不十分なのでしょうか。
A 民法では、判断能力の不十分な人をその程度に応じて禁治産者、準禁治産者として単独では取引行為(準禁治産者の場合は重要な取引行為等)を有効に行なうことができないものとして、それぞれ後見人、保佐人が選任されることになっています。主な問題点としては、精神的能力の不十分な人を取引の世界から排除する事に重点が置かれていて、これらの人たちの人権に対する配慮が不十分であること、特に精神的能力の低下といってもその程度は各人で異なり、残っている能力があったとしても後見人が付されると全く自分で決定することができなくなってしまい、柔軟な対応が不可能な点があげられます。また、財産管理の面が中心で介護、身上監護(ケア)の視点がほとんどないと批判されています。
Q この問題に関連して民法改正等が行なわれるのでしょうか。
A 平成七年六月から、法制審議会の財産法小委員会で、準禁治産制度の見直しなどについて審議が開始され、実現すれば大改正になるといわれています。またこれに呼応して学界でも、分野で進んだ改革を行なっている諸外国の立法の紹介や改正試案が発表されています。
Q 諸外国の進んだ制度としてはどのようなものがありますか。
A 現行民法の準禁治産制度のように完全に後見人に権限を移して本人は何もできなくなる「完全後見」ではなく、本人の能力の足りない部分を後見人が補うという「部分後見」の制度や、公的な機関が後見人となる「公後見」の制度等があります。また、「後見」ということからはやや外れますが、本人が判断能力を失う前に予め特定の人に代理権を授与しておき、本人が能力を失った後はその代理人が本人の財産の管理や身上ケアを行うという「持続的代理権」が、例えば、裁判所の関与の下にひろく活用されており、後見制度と同じ役割を果しています。
わが国でもこれらの制度の長短をよく検討したうえで実情にあった改革を実現する必要があります。


当番弁護士ってなに

 一 東京弁護士会は平成三年から当番弁護士制度を発足させました。
当番弁護士というのは、弁護士会に当番の弁護士を置いて、逮捕された被疑者本人や家族等から、知り合いの弁護士がいなくても、弁護士会に弁護士接見の依頼があれば、当番弁護士が無料で接見に赴き、被疑者の相談に応じる制度です。
今までにも弁護士会が弁護士を紹介する制度はありましたが、従来の制度では自ら費用を負担して私選弁護人として選任することが前提となっており、又、紹介の要請があってから弁護士が接見するまでの時間が相当かかっていたため、起訴前の弁護制度としては極めて不十分なものでした。
ところが当番弁護士の場合は、依頼があってから数時間の後には接見がなされること(少なくとも、その日のうちには接見がなされます)、一回目の接見は無料であること、弁護人として選任するか否かは被疑者の自由であること等から、逮捕された被疑者にとっては極めて有意義であり、現在では制度として定着して多くの人に利用されています。
二 刑事事件では、被疑者に資力が無くても起訴された後には国選弁護人を選任してもらうことが出来ます。しかし、起訴前には国選弁護人を選任してもらうことはできません。
ところが、刑事事件では起訴前の弁護の必要性が極あて高いのです。被疑者は往々にして法律に暗いため、警察官の言うままに身に覚えのない自白調書を作成させられることがあり、あるいは、別件逮捕などの違法な捜査にも異議を述べることが出来ません。しかし、もし、逮捕された直後に弁護士と話が出来れば、このような不当な捜査を未然に防止することが出来るのです。そして、何よりも、独房に入れられた被疑者にとって弁護士と会えることは非常に勇気づけられることになるでしょう。
又、起訴前に弁護人を選任することにより、示談その他の弁護活動の結果、事件が不起訴処分で終了することもあり得ます。
三 当番弁護士との第一回目の接見終了後に、その弁護士を弁護人に選任するかどうかは被疑者の自由です。資力があれば、私選弁護人として選任すればよいし、資力がなければ、法律扶助協会の援助を受けてその弁護士を弁護人に選任することもできます。この場合には、起訴後はそのまま国選弁護人になってもらうことができます。又、当番弁護士との関係は第一回目の接見だけで終了し、弁護人に選任しないこともできます。
四 この当番弁護士の制度は制度発足時から極めて好評で、現在、毎月東京で約二五〇名、全国で約一二〇〇名の被疑者が利用しています。当番弁護士を呼んだ後、法律扶助協会の援助を受けてその当番弁護士を弁護人に選任する事例も多く、そのために弁護士会や法律扶助協会の費用が嵩み、弁護士会では会費を増額してこの制度の維持を図っています。
当番弁護士制度を実施した経験を踏まえ、弁護士会では、国の施策として、被疑者殺階での国選弁護人の制度ができるよう運動をしています。

法曹人口と基盤整備について

Q 先生、最近新聞で行政審議会から、法曹人口を増やすようにとの勧告が出て、弁護士会が抵抗しているという記事がありますが、私達は日本もアメリカ程でなくとも、もう少し弁護士が増えた方が良いと思うのですが…。
 A 日本の弁護士は、約一万五〇〇〇人、アメリカの弁護士は約九〇万人で、日本の弁護士数は先進国のうちで極端に少ないから増やすべきだとの議論ですが、日本には税理士さんや司法書士さんなど周辺業種があり、アメリカにはこれがないので、単純な比較はできません。
東京では周辺業種を入れるとそれら法律関連職の人口当りの比率はかなり高いといえます。但し、明治以来、日本は行政優位で本当の三権分立がなかったから、「司法の機能を高めるべきだとの議論があり、それはそのとおりなのですが、そのためには単純に司法試験合格者を増やすだけでなく、いわゆる司法基盤の整備を進めることが必要だというのが弁護十会の立場なのです。つまり、法律扶助の拡充、裁判官や検察官の増員、訴訟を提起するときに貼る印紙額がアメリカでは一件当り約一〇〇ドル(約一万円)なのに比し、日本では例えば五〇〇〇万円の交通事故の裁判を起こすのに二一万七〇〇〇円必要で、高いのでこれを安くする、精神的慰謝料の額を高める、悪いことをした人に対しては実損の補償だけでなく、制裁的賠償を認める、情報公開をもっと行う、製造物責任について中立的原因究明機関を設ける、調停手続きをもっと合理的にするなどの整備が必要です。
 Q 法律扶助について、もう少しご説明下さい。
 A 法律扶助というのは、資力がなくて司法サービスを受けられない人にも裁判を受ける権利を保障するため、公の機関がそのサービス料金を立替えるか、又は交付する制度ですが、日本では立替える制度をとっています。ところが、例えば英国では法律扶助基本法があり、年間所要資金の八二%である九億一七〇〇万ポンド(二四二〇億円)が国庫から投与されており、フランスの国庫負担は八二億円、ドイツは二六二億円、アメリカは四八三億円なのに対し、日本は二億一〇七四万円と極端に低くなっています。
 Q わかりました。そうするとそうした基盤整備をしないで、司法試験の合格者を一挙に年間一五〇〇人位にするとどうなるのでしょうか。
 A 二年位前まで司法試験の合格者は年間五〇〇人位だったのですが、現在七〇〇人になって、経済不況のせいで修習生は就職難だと聞いています。
これを一挙に合格者を増やすと、裁判所や検察庁の予算が増えない限り大方弁護士になるでしょうが、基盤が出来ていないため、新たに弁護士になった人達は無理に訴訟事件を増やそうとしたり、経済的にペイしない人権擁護活動や裁判費用を負担出来ない人たちの問題を扱おうとせず、経済的に有利な事件だけを求めようとし、倫理や質が低下し、結局国民が迷惑することになります。
我々が目指すものは、乱訴が横行する社会ではなく、バランスがとれた三権分立により、本当に正義が実現する法の支配が貫徹する社会なのですが、そのためには、先に言った基盤整備とともに徐々に法曹入口も増やすべきで、一挙に増やすことは弊害があるという主張です。
 Q よくわかりました。増えすぎると弁護士が食えなくなるというエゴで弁護士会が動いていると思っていたのですが、そうでないことが分かりました。これから私達も弁護士会の活動をよく理解して応援したいと思います。