指印による遺言書は有効か

甲野太郎は「遺言書 私所有の東京都中野区中央壱丁目壱番壱六五㎡及び同町同番地所在家屋番号壱番木造瓦葺平屋建居宅壱棟床面積八〇㎡を長男乙に相続させる。昭和六〇年壱月壱日 甲野太郎」と書き、甲野太郎名下に指印をおしました。

太郎の死後、指印による遺言書の効力が争われましたが、最高裁判所は、有効と判断しました。

しかし、太郎の指印であるかどうか、太郎の死後のことでもあり、判定がむずかしいので、できれば実印をおしておきたいものです。
この例は自筆証書遺言といって、遺言者自身が全文と日附を書き、署名押印することが必要で、タイプやワープロによるものは無効です。一旦書いたものを訂正することもできますが、訂正方法は厳格なので、ご注意下さい。

「長男乙に相続させる」という遺言の場合、土地と建物につき、乙は他の相続人の協力を得ることなく、単独で乙名義に登記することができます。また、この土地が借地であるときは、地主の承諾なく、乙が借地人となることができるのです。

公正証書遺言というのもあります。遺言者が公証人の面前で、遺言の趣旨を述べ、公証人が筆記します。そして、遺言者と証人二名に読んで聞かせ、筆記が正確であれば、この三人と公証人がそれぞれ署名押印し、遺言書ができあがります。「相続させる」という遺言であれば、自筆証書遺言と同じ効力です。

公証人は各地にある公証役場で執務しているので、公正証書遺言をしたいときは、持参する書類や費用等を事前に電話照会しておくのが便利でしょう。

自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要ですが、公正証書遺言はその必要がありません。
遺言書の中に遺言執行者を指定しておけば登記や銀行等の手続の関係で便利です。
その他の遺言の方式は、あまり利用されていないので省略します。

融 通 手 形

Q 私は、三か月ほど前、一〇年来取引のある親しい業者のAさんから「当座の資金繰りに困っているので、お宅の手形をちょっと融通してもらえないか。満期までには手形の決済資金を必ず持ってくるから、何とかお願いしたい」と頼まれ、ついつい、私の会社で振出した額面五〇〇万円の約束手形をAさんに渡してしまいました。ところが、困ったことにAさんは、手形の満期まであと二日しかないのにその資金を持って来ないのです。もし、このまま満期が来て、手形を取得した人から請求を受けたら、手形金を支払わなければならないでしょうか。

A そのように、商品取引の裏づけなしに専ら金融を得させる目的で振り出される手形を「融通手形」、略して「融手」というのですが、結論から言いますと、Aから手形を取得した人が、融手であることを知らない場合は勿論、知っている場合でも原則として支払わなけれぽなりません。融手の振出人は、もともと、受取人がその手形を割り引いてもらって金融の目的を達するために振り出すわけですから、その手形を割り引いてあげた人がそのような融手であることを知っていたとしても、それを理由に支払を拒絶することはできないのです。

Q それでは、融手を振り出してしまったら、どんな場合でも、その手形を取得した人からの支払請求を拒むことはでぎないのでしょうか。

A 例外的に支払を拒むことができる場合があります。たとえば、Aからその融手を取得した人が、取得の際に、それが融手であって、しかも、Aが満期までに支払資金をあなたに提供する見込みがないことを知っていた場合です。この場合は、これをいわゆる「悪意の抗弁」として対抗することができ、手形金の支払を拒むことができます。
実際には、融手を取得した第三者が支払を請求してきた場合、あなたとしては、不渡処分を受けないために手形金と同額のお金(異議申立預託金という)を支払銀行に積まなければなりませんし、最終的には裁判で今お話した抗弁事由を主張立証しなければなりません。
したがって、最終的に支払を拒絶できるか否かは別として、あなたとしては、Aが満期までに資金を用意できない場合に備え、手形金相当額のお金を準備しておかなければならないことになります。

Q そうですか。幸いその程度の資金は準備出来ますが、親しいAさんのためとはいえ馬鹿なことをしてしまいました。もう二度としませんよ。

A そうですね、融手の危険性や法律上の問題点はまだまだありますが、それはまたの機会にお話しするとして、とにかく、あなたとしては、資金の準備と、Aからこれを回収する手立てを考えておかなければなりませんね。

時効あれこれ

今回は、時効に関する簡単なクイズを出してみましょう。
次の請求権は、何年経過したら請求出来なくなるでしょうか。

○一友人間の貸金  ○二医師の治療代
○三弁護士の報酬  ○四料理屋の飲食料
○五学習塾の月謝  ○六工務店への支払
○七弁済供託した供託金

回答は、最後に出てきますが、消滅時効制度というのは、時の経過によって事態が不明確になってしまったために請求の相手方が、免責事由を主張することが困難となったような時点において、長期間沈黙されていた遠い過去において存在した事実が、請求の根源として主張されるということは、取引界にとって堪えがたい、という点、従って権利の上に眠っている者は保護しない、ということに立法趣旨があると云われています。

消滅時効の起算点は、何時から始まるかというと、「権利を行使することが出来るとき」から、つまり、貸金は弁済期より、医師の治療代は治療が終わったとき、弁護士の報酬は事件が終了したとぎ、工務店の支払は工事が終了したとき、供託金であれば争いが解決して還付や取戻が不利にならなくなったとき、からですが、時効が進行しても、途中で、請求、差押、仮差押、承認があれば、中断(ストップ)します。請求については、一回すれば永久にストップするということでなく、催告してから六ケ月以内に裁判上の請求等の法的手続をとらないと効力がなくなってしまいます。

承認というのはどういうものかと言いますと、例えば時効完成一ヶ月前に往復葉書で何時までに貸金の返済をして頂けますか、ご返信下さい、と書いて、相手が今都合がつかないので、一年間だけ待って欲しいと回答すれぽ、承認したことになります。尤も貸主は相手の云うとおり一年待たねばならないということではありません。又、時効は期間が満了すれば、当然に効果が生ずるのではなく、援用(その旨意思表示をすること)により生じます。

ですから、例えば友人からお金を借りて一一年目に時効だから返さないと言わず、一旦返しますと返事したときは、時効利益の放棄といって後で時効だから返さないと言えなくなります。

さて、最初のクイズの答は、
○一一〇年 ○二三年 ○三二年 ○四一年
○五 二年 ○六三年 ○七一〇年
ということになりますが、
弁護士の報酬だけは時効にかからないよう、よろしくお願いします。