手形不渡異議預託金

質 問 今日は、手形の異議預託金という言葉をよく聞きますので、そのことについてご説明下さい。

弁護士 まず、最初に我国の手形の実情をお話ししますと、日本は敗戦で資金のない処から復興したため、諸外国は為替手形が多いのに、日本では圧倒的に約束手形が多いということを申し上げます。
これら手形や小切手が呈示されたのに、支払銀行において支払に応じがたい手形が不渡手形です。
不渡手形には支払銀行は不渡事由を付して持出銀行に返還するのですが、資金不足、取引なしの場合は、第一号不渡事由となり、不渡届の提出対象となり、形式不備等適法な呈示でない場合は、ぜろ○号不渡事由で不渡届が提出不要、それ以外の契約不履行、詐欺、紛失、盗難、偽造、変造等の不渡事由を第二号不渡事由といいますが、この場合支払銀行は、当該不渡手形金相当額を交換所に提供して異議申立てをすることができます。これを異議申立提供金といいます。
この場合、普通振出人が支払銀行に同額のお金を預託しますが、これを異議申立預託金といいます。

質 問 ところで、今回異議申立に関する東京手形交換所規則が変ったということですが、どういうことなのでしょうか。

弁護士 従来、不渡手形をつかんだ人は、異議申立預託金を仮差押し、手形訴訟をしてから差押するのですが、そこまでしたのに持出銀行が貸付金と相殺するとか、提供金が返ってきて始めて預託金の方が払われるわけですが、提供金が返るには不渡事故解消届を振出人と所持人が双方捺印して提出しないと、二年間待たないと差押えたのに払って貰えない等の不満がありました。こうした不満を解消するよう、日本弁護士連合会は昭和六三年に意見書を提出し、この意見の趣旨を一部受入れる形で平成二年三月、交換所規則が改正されたわけです。

質 問 改正内容はどんな点でしょうか。

弁護士 今までは銀行が相殺した場合、手形所持人は回収できないのに不渡事故解消とされていたが、今回は不渡となったこと。不渡事故解消届だけでなく、手形判決が確定したときは、支払義務確定届を、差押命令が送達されたときは、差押命令送達届を提出することにより提供金が返るようにしたこと。支払義務が確定しているのに支払がない場合は、支払人を不渡処分の対象とする旨の審査請求をすることができること等です。

質 問 せっかく差押をしても相殺されてしまうということは、解消されないのでしょうか。

弁護士 相殺自体が禁じられたわけではありませんが、相殺しても判決が確定した届を出したり、差押命令送達届を出すことにより不渡処分になるので、債務者が事業を続ける限り相殺されても別途資金で支払うことが期待されるので、抑制効果になると思います。

質 問 ありがとうございました。弁護士会が法律や制度の改正に積極的にとり組むということは素晴らしいことなので、今後も頑張って下さい。

債 務 の 承 継

A 氏 こんにちは、今日は亡くなった親父の相続のことで相談したいのですけど。

弁護士 どんなことでしょうか。

A 氏 親父は二ヵ月前に死亡したのですが、財産といったら自慢の釣り道具位で、借家ですし、保険は八○○万円位、葬式用にとかけていたのですが、友人から借金が一〇〇〇万円あるようなのです。
相続人は私と兄貴二人だけですが、親父は最後の家賃を五ヵ月分位ためていたらしいのです。
今回、兄貴が親父の借家に住みたいというのですが、大家さんは滞納家賃を二人に請求してきました。

弁護士 わかりました。相続というのは、釣道具のような積極財産だけでなく、債務も含むのですが、金銭債務のような場合は、分割債務になるといわれ、借金の一〇〇〇万円と滞納家賃はお兄さんと半々で負担するということになります。

A 氏 いや、大変だ。保険金の受取人は兄貴ですし、釣道具も兄貴が貰う話になっているのですが、それでもですか。

弁護士 法律の建前は判例上そうなっています。実際は財産を貰った人が払う例が多いようですし、債務の負担割合も話し合いで決まるという学説も多いようです。

A 氏 何かこの債務を免れる方法はないでしょうか。

弁護士 相続の開始を知ってから三ヵ月以内に裁判所に対して放棄又は限定承認の手続をすれば免れます。放棄の場合、次に相続人になる人が相続することになり、限定承認は二人で一緒にしなければなりませんが積極財産の範囲で弁済することになります。

A 氏 放棄や限定承認をすると、兄貴の受取る生命保険も手に入らなくなるのでしょうか。

弁護士 お兄さんが受取人になっている保険金は、お兄さんが保険会社から受取るお金で、法律的には相続財産ではありません。従って、放棄や限定承認をしても貰えることになります。

A 氏 いや、これは良いことを聞いた。さっそく兄貴に知らせてあげよう。先生ありがとうございました。

親の面倒は?

Q 私の母は今年七〇歳になり、一人でアパート暮らしをしています。私には実兄が一人おりますが、母と兄嫁との折り合いが悪く、母は兄の世話になろうとしません。私は母を引き取っても良いと思っていますが、私の夫は「長男が親の面倒を見るのが当然だ」と言って賛成してくれません。皆で何回も話し合いをしましたが結論が出せません。このような場合、法律で、このようにしなさいと決められていないのでしょうか。

A 民法では、扶養義務者が誰れであるかが定められているだけで、具体的にどのように扶養をすべきであるということについては定められておりません。

Q 私と兄は扶養義務者ということになりますか。

A はい。民法では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。」「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合の外、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と規定しております。

Q では、具体的に私と兄のどちらか母の面倒を見るべきなのでしょうか。

A 民法では、実際に誰れが扶養をするか、どのように扶養するか (お金を出す、とか、引き取って世話をするなど) については、まづ当事者間で協議をしなさいと規定しています。そして、どうしても話し合いがつかないときには、「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める」と規定しています。
あなたが、もし、家庭裁判所に調停を申し立てたとすれば、家庭裁判所では、お母さんの意向や、お兄さんの家庭の事情、収入、お兄さんと兄嫁さんの意向、あなたの家庭の事情、収入、あなたやあなたのご主人の意向などを詳しく尋ねて、お母さんをどちらかに引き取らせるべきか、あなた又はお兄さんに生活費の一部を出させるべきかなどを決めてくれると思います。

Q 私が母を引き取り、兄には生活費を出してもらうということもありえますか。

A 充分にありえます。

Q 兄から母の生活費として毎月いくらくらいもらえるのでしょうか。

A 過去の調停の例では、非常に少ない場合もあれば、五万円以上のこともあり、要はお兄さんの収入、あなたの家庭の収入、お母さんの年金などの収入、などさまざまな要因を考慮して決められて、統計ではかなりの調停成立が得られているようです。