逸失利益の計算

Q 知人の息子さんが、交通事故にあってひどい怪我で脊柱に運動障害を残す第六級の後遺症を負ったというのですが、どのように損害を計算するのでしょう。
A 交通事故の損害は、治療費、葬儀費用等、実際にお金を出した損害と、慰謝料及び事故にあわなければ収入を得たであろう消極損害の大きく三つに分かれます。
 消極損害のうち、単なる傷害の場合、休業損害といい、後遺症を伴うものや死亡の場合、逸失利益といいます。既に休んだか、これから働けないかの時点的区別です。
Q 逸失利益はどのように計算しますか。
A 実際の収入額または学歴別給与額(年収)に労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけます。
 第六級の後遺症の場合、喪失率は百分の六七で死亡の場合一〇〇です。学歴別給与額は賃金センサスからもってきますが、最近はこの給与に男女差をなくすべきだとの判例が増えています。
Q ライプニッツ係数とは何ですか。
A その人の働ける残存年数(六七歳まで)が一〇年として年収五〇〇万円とした場合、一〇年後に五千万円になるものを現時点で貰うとしたらいくらが妥当かという年金現価表のことで、新ホフマンとライブニッツという二つの係数がありますが、東京地方裁判所では、ライプニッツ係数を用います。
 例えば、労働能力喪失期間が一〇年の場合、係数は七・二一七となっています。
ドイツのライプニッツという人が開発した係数表です。
Q 六級の場合、慰謝料はどの位ですか。
A 裁判基準で一一〇〇万円、保険基準で四八四万円となっています。
Q 死亡の場合、逸失利益からかかるであろう生活費を控除すると聞いていますが、後遺症の場合そのようなことはないのですか。
A 死亡の場合は、生活費がかからないので生活費が控除されます。一家支柱で被扶養者一人の場合四〇%、二人以上の場合三〇%、主婦の場合三〇%、独身男性の場合五〇%の生活費を控除します。
 一方、後遺症の場合は、死亡していないので生活費はかかるわけですから、生活費を控除するということはありません。
Q 収入は、どうやって証明しますか。
A 証明するものがないと、前述したように賃金センサスから持ってくるので、お尋ねの息子さんは大卒で二四歳ですから、二三二万五七〇〇円が年収ということになりますが、これから増えるわけで、大卒全体の男性の平均給与、月額四一万九六〇〇円、年収五〇三万五二〇〇円をもってきます。それ以上の年収を得ていた場合は、源泉徴収票や税金の申告証明等をもってきます。
Q 先程後遺症の慰謝料のことはお聞きしましたが、慰謝料はそれだけですか。
A いえ、入院慰謝料や通院慰謝料というものがあり、入通院で社会生活が妨げられたことによる精神的苦痛を慰謝しようというもので、一ヵ月通院で二五万円、二ヵ月通院で四七万円、一ヵ月入院で四八万円、二ヵ月入院で九二万円が基準です。通院期間の計算は実治療日数の三・五倍(むちうちで他覚障害がない場合、三倍)で計算します。

遺産分割協議と相続放棄の申述

訓 私の父が亡くなったので、兄から遺産分割協議書に実印をおしてくれといわれました。
 それによると遺産はすべて、母と兄とが相続し、私と妹には何もあげるものは無いというのです。家業は兄が次いで、母は兄が面倒見るから、かわりに私と妹は財産を放棄してくれというのです。私も妹も異存はないのですが、遺産分割協議書に実印を押すだけでよいのでしょうか。
 家庭裁判所へ相続放棄の申述もしておいた方が良いという人もいるのですが。
掘 結論からいえば、お父さんの死後三カ月以内に相続放棄申述書を家裁へ提出して、相続放棄申述受理証明書をもらっておかれるのが安全です。
訓 相続放棄とはどういうことですか。
掘 相続放棄とは、あなたの場合でいえば、お父さんが亡くなったことを知った時から三カ月以内に、お父さんの財産は試算も負債も一切相続しないと家裁へ書面で申し出ることです。
訓 遺産分割協議書の中で、相続を放棄すると書くだけでは、いけないのですか。
掘 相続人の間ではそれだけでもよいのです。しかしお父さん(被相続人)の債権者に対しては効力が無いからです。被相続人の債権者に相続放棄の効果を主張するためには、必ず家庭裁判所へ相続放棄の申述をして、相続放棄申述受理証明書をもらっておくことです。
訓 例えばどのようなときに、役立つのですか。
掘 お父さんが生前誰かの借金の保証人になっていて、お父さんの死後何年もたってから債権者が保証人に請求してきたようなときです。このような場合は、相続放棄申述受理証明書さへ債権者に提出すれば、支払わなくてもすみます。
訓 補償債務の請求を受けてから、相続放棄の申述をするのでもよいのでしょうか。
掘 被相続人の死後三カ月以内なら、相続放棄の申述は簡単に認められます。しかしそれを過ぎると今度はそのような補償債務の存在を知った日から三カ月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。申述の遅れた理由について、証拠書類を揃えて裁判官を納得させるだけの説明をしなければなりません。これがなかなか難しいことですから、遺産分割協議で何も財産は相続しないと決まったら、すぐに家裁への相続放棄の申述をしておかれるよう、お勧めします。
訓 被相続人の死後何年もたってから相続人に請求される例は、他にもありますか。
掘 例えば、自分の親が先に死亡して、その後に親の兄弟姉妹が借金を残して死亡したときが考えられます。
 このような場合は、債務の請求を受けた時から三カ月以内に相続放棄の申述をすることが重要です。


根保証は慎重に


輝 根保証とはどのようなものですか。
機 普通の保証は、借主が借りたお金を返せないときに保証人がそれを代わりに支払えばそれで保証契約が終了するのですが、根保証というのは、貸主と借主が貸し借りを何回も継続することを前提にして、契約日以後の一定の時期までのすべての取引について保証しようというものです。その取引はお金の貸借だけでなく商品の売掛取引のようなものでも構いません。
 借主が支払不能に陥ったり、約束の根保証の期限が到来するなどの一定の事情があると、その時点の残存債務について保証人が支払の責任を負うことになります。
 根保証には、保証期間及び保証限度額についての定めがない「包括根保証」と、保証期間又は保証限度額についての定めがある「限定根保証」があります。
輝 保証期間というのはなんですか。
機 何時から何時までの期間の取引について保証するかを取り決めた場合の期間を言います。保証期間を定めない場合もありますが、その場合は、根保証契約が解約されるまで保証し続けることになります。
輝 根保証の契約をする以前に発生している債務を保証することもありますか。
機 契約でそのように定めれば、保証することになります。多くの契約書では、そのようになっています。
 契約で特に定めがなければ、既存債務については保証せず、将来発生するもののみを保証することになります。
輝 保証限度額というのはなんですか。
機 根保証では、保証人が保証する限度の金額を取り決めることができます。その取り決めた金額のことを保証限度額といいます。これを「極度額」ともいいます。
 この極度額は、原則として、元本、利息、損害金も含んだ合計額をいいますが、契約で「元本極度額」とされているときは、その極度額は元本のことを言い、その元本に対する利息、損害金を元本極度額に加算して保証することになります。
 なお、根保証では極度額を定めない場合もありますので、その場合には、保証期間中に発生した債務の全額について保証することになります。
輝 根保証の契約をすると、常に契約書どおりの責任を負わねばなりませんか。
機 原則として契約書どおりの責任を負わねばなりません。ですから、根保証の契約をするときには、特に慎重に契約文言をよく読んでサインをすることが必要です。
但し、根保証における保証人の責任が重いこともあって、裁判所によって保証人の責任が軽減されることもあります。特に、極度額の定めのない包括根保証について、裁判所が「根保証契約が締結されるに至った事情、貸主と借主との取引の態様・経過・貸主が取引に当たって債権保全のために講じた注意の程度とその手段、その他一切の事情を斟酌して、信義則に照らして、保証人の責任を合理的範囲内に制限すべきである。」として、残債務の一部のみを支払えばよいとした事例などがあります。
 又、極度額の定めがある場合でも、保証限度額が保証契約締結時点における主債務額に比較して高額である場合には、裁判所は、包括根保証の場合と同じ様に保証人の責任を軽減することがあります。
 更には、貸付担当者による説明が、普通の保証であると誤解させるようなものであり、保証人が誤解して、根保証契約書にサインしてしまつた場合などには、裁判所によって、保証契約全体が無効とされたり、その貸付時の金額を越える部分が無効とされたりすることもあります。

遺産分割協議と相続放棄の申述

訓 私の父が亡くなったので、兄から遺産分割協議書に実印をおしてくれといわれました。それによると遺産はすべて、母と兄とが相続し、私と妹には何もあげるものは無いというのです。家業は兄が継いで、母は兄が面倒見るから、かわりに私と妹は財産放棄をしてくれというのです。私も妹も異存はないのですが、遺産分割協議書に実印を押すだけでよいのでしょうか。
 家庭裁判所へ相続放棄の申述もしておいた方が良いという人もいるのですが。
掘 結論からいえば、お父さんの死後三ヵ月以内に相続放棄申述書を家庭裁判所へ提出して、相続放棄申述受理証明書をもらっておかれるのが安全です。
訓 相続放棄とはどういうことですか。
掘 相続放棄とは、あなたの場合でいえば、お父さんが亡くなったことを知った時から三ヵ月以内に、お父さんの財産は資産も負債も一切相続しないと家庭裁判所へ書面で申し出ることです。但し、それまでにお父さんの財産を少しでも処分した場合は認められません。
訓 遺産分割協議書の中で、相続を放棄すると書くだけでは、いけないのですか。
掘 相続人の間ではそれだけでもよいのですが、お父さん(被相続人)の債権者に対しては効力が無いのです。だから被相続人の債権者に相続放棄の効果を主張するためには、必ず家庭裁判所へ相続放棄の申述をして、相続放棄申述受理証明書をもらっておくことです。
訓 例えばどのようなときに役立つのですか。
掘 お父さんが生前誰かの借金の保証人になっていて、お父さんの死後何年もたってから債権者が保証人に請求してきたようなときです。このような場合は、相続放棄申述受理証明書さへ債権者に提出すれば、支払わなくてもすみます。
訓 保証債務の請求を受けてから、相続放棄の申述をするのでもよいのでしょうか。
掘 被相続人の死後三ヵ月以内なら、相続放棄の申述は簡単に認められます。しかしそれを過ぎると今度はそのような保証債務の存在を知った日から三ヵ月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。申述の遅れた理由について、証拠書類を添えて裁判官を納得させるだけの説明をしなければなりません。これがなかなか難しいことですから、遺産分割協議で何も財産は相続しないと決まったら、すぐに家庭裁判所への相続放棄の申述をしておかれるよう、お勧めします。
訓 被相続人の死後何年もたってから相続人に請求される例は、他にもありますか。
掘 例えば、自分の親が先に死亡して、その後に親の兄弟姉妹が資産がなく借金だけを残して死亡したときが考えられます。
 このような場合は、債務の請求を受けた時から三ヵ月以内に相続放棄の申述をすることが重要です。